本当は文章よりも漫画とか、絵にしたほうが楽しいと思うのだけど。
作品中に出てくる競技については、現実世界のものとは別と考えてね。
本気にする人はいないと思うけど。
「球技大会」
告知の紙が張り出されていることに気づいたのは、課題の提出のため学生課に立ち寄ったときだった。
「『球技大会のお知らせ』?」
ヴェイン、フィロ、ニケの3人が覗き込んだアルバイトの記入用紙よりも大きいそれには、日時と競技の内容が書かれている。
参加条件として、競技そのものは個人で行うとしているものの、アトリエごとの登録が必要らしい。
「…『なお、ユニホームは各自で用意すること。ユニホームのレシピについては購買部で本日より無料配布する。』」
最後に書かれていた文章をヴェインが淡々と読み上げると、隣にいたニケが一言感想を口にする。
「けちなんだかふとっぱらなんだかよくわかんないね」
「うん…」
「でも新しいレシピをタダでもらえるんだよ。嬉しくない?」
「参加しなきゃもらえない、だったりして」
「参加してもいいよー。楽しそうだもん。ね、ヴェインくん」
「え?!…あ、ごめん。うん、そうだね…」
フィロとニケの間に挟まれて何か考え事をしていたらしいヴェインは、いきなり話を振られ慌てて頷いた。
だが、その後の歯切れの悪い口調に、ふたりは顔を見合わせると、再びヴェインの方を向く。
「? どうかしたのヴェイン」
「もしかしてヴェインくん、苦手だった?」
二人の言葉にヴェインはどう答えようかと思う。
学園にきてから随分経って、ここでの生活に慣れてきたと思っていた分、口に出すのが妙に恥ずかしかった。
「苦手というか…どんな競技なのか知らないからわからない、かな」
フィロとニケの目が、まん丸になる。
確かに彼が以前話した、サルファと山奥で二人暮らしという環境でならば、触れる機会は極端に少ないだろう。
「そっか…あー、そういうことなら、ちょうどよさそうなのがひとりいるじゃん」
思いついたニケはヴェインの手をとると引っ張って歩き出す。
引きずられるように歩き出すヴェインの横にフィロが付いて歩く。
「ニケちゃん、もしかして先生のところにいくの?」
「ちゃうちゃう。もっと手軽なとこ」
「卓球:ネットを張ったテーブルをはさんで競技者が相対し、ラケットでボールを打ち合い得点を競う球技(by大辞林)」
『手軽なとこ』呼ばわりされていたことを知らないロクシスは、実験の手を止められ不機嫌な顔でそう言うと、「そもそも、いったい何事だ」と3人を眺めた。
突然アトリエに騒々しくやってきたと思ったら、いきなり『卓球』の説明しろと言い、渋ると「ヴェインのためだ」とわけのわからないことまで言い出す始末。
妙に強気なニケとフィロの後ろで、ヴェインが彼女たちとは対照的に申し訳なさそうに小さくなっているのが見えたから、仕方なくロクシスは答えたのだが…。
「球技大会のこと話してて、ヴェインが知らないっていったから」
「私も見たことあるだけだし」
「うちもちょこっと経験あるだけだし。…ってことで、ロクシスだったら無駄にそういうことも知ってそうだから聞きにきたの。うちの勘も捨てたもんじゃないにゃー」
「球技大会?卓球が種目名にでもあったのか」
「あんた見てないの、学生課の掲示板」
「知らないな。まあ、興味もないから別に困らないが」
「へーぇ。まあ、らしいけど。んじゃ、ありがとね。フィロ、ヴェイン、購買部にレシピもらいにいこー!」
「あ、ニケちゃんちょっと待って。ロクシスくん、もうひとつ、卓球のユニホームって知ってる?」
「卓球にユニホーム?あまり聞いたことがないが…」
「参加する人はユニホームを自分で作らなきゃいけないみたいなんだ。だからどんなものか知ってたら教えてほしくて…でもロクシスが知らないなら仕方ないよね」
ヴェインは『物知り』のロクシスでも、という意味で言ったのだが、ロクシスはとたんに顔をしかめた。
「……」
「あれ?ロクシスも来るの」
ニケに呼ばれてヴェインが工房を出ようとすると、ロクシスもその後に付いてきていた。
実験器具はすでにあらかた片付けられている。
「参加するつもりはない。が、レシピそのものに多少興味が沸いただけだ」
「…(もしかして僕、またへんなこと言っちゃったのかな…)」
この態度は、アトリエに来てしばらく経った頃の彼を思い出させる。
最近は一緒に調合をするなど、仲良くなれたと思っていたのに。
「はーやーく。ヴェイン。レシピがはけちゃったらどうするの」
「そんなに早くなくなるほど、数が少ないとは思えないけど…」
「いーじゃん。ほら、いくよーっっぎゃあっ!」
ヴェインたちを振り返りながら扉を開けて、その正面にぶらん、と逆さまにぶら下がった顔に激突しかけたニケは大きな悲鳴を上げた。
「それにはおよばん」
「先輩」
フィロとヴェインは驚き、ロクシスは呆れて声を上げる。
「毎度毎度思うけど、なんでまともに入ってこれないかにゃ…」
「情報が早いのは結構。だが今からレシピを入手するというのは少々遅いぞ」
座り込んだニケのげんなりした声に答えることなく、すたっと床に降り立ったグンナルは持っていた紙の束をヴェインたちに渡す。
「…先輩これって…」
材料と作り方の書かれたそれは、完成すると服になるらしい。
「購買部で配布されているレシピだ。お前たちの分もある。もちろん、参加登録も含めてだ」
「もしかして全員…」
「俺様に抜かりはない!」
…グンナルの姿を見たときから、なんとなく予想していたとおりの内容に、一人を除いて生ぬるい笑みが浮かべる。
まだヴェインたちほど免疫のない…あったとしても受け入れたくないロクシスは、持たされたレシピも嫌そうに言い放った。
「人の意見もきかないで勝手なことをしないでください。私はそんなことに無駄な時間を費やすつもりはありませんよ」
その言葉にグンナルは「ほう」と眉を上げる。
「お前は参加したくないというのか、ロクシス」
「これっぽっちもありませんね」
顔をそらし、取り付く島のない様子に、グンナルは視線をヴェインに移す。
「ヴェインはどうだ」
「ぼ、僕ですか?僕は…」
「ヴェインくんv」
「ヴェイン」
問いかけられたヴェインの傍で、ニケとフィロがそれぞれ声をかける。
「えーと…嫌じゃないです」
競技を知らなかっただけで、大会そのものには参加してもいいなと思っていた。
フィロたちに誘われていたこともあるし、ヴェインはそう返事をしたのだが。
ヴェインの返事ににやっと笑ったグンナルの表情に、「あ」とあることを思い出した。
「そうかそうか。ヴェインは参加するんだな。が、ヴェインと『仲良し』のロクシスは断固としてそれを拒否する…と」
『仲良し』の単語がでたとたん、ぴくりとロクシスの肩が震えた。
タイミングよく、グンナルとロクシスの間に光のマナが姿を現す。
「話は聞こえていたか」
「もちろんじゃ。ああ、それにしても残念なことよのぅ。我が主とヴェインは仲良しさんであったと思っておったのじゃが。ヴェインは参加するというておるのに、ああまで拒否するなど…やはりここは…」
「分かりました!参加します!それでいいんでしょう!?」
これまでたびたび繰り返されてきたことで、もうこのあとマナが何を言い出すのかはロクシスを含め、一同分かっている。
「マナの契約を破棄する」というそれだけはなんとしてでも避けたいロクシスは、こぶしを握り体を震わせながらも前言撤回しそう言ったのだが…。
ちらりとロクシスに目を向けたマナはさらに首を振って、わざとらしく言ってみせた。
「…いやいや、主に無理を言うては…」
ただ撤回させるだけでは面白くない、と思ったらしい。
形だけ渋ってみせるマナに、ロクシスは顔を真っ赤にして、一度目を閉じた。
むりやり口の端を引き上げ、かなりひきつりながら笑みのようなものを作る。
「ぜひ、参加させてください!お願いします!」
最近、ロクシスいじりの度が高くなってきたマナの行動に、ニケとフィロは少しだけ、ヴェインは盛大にロクシスに同情しつつその行動を見守っていた。
ようやく(わざとらしく)納得したマナが姿を消した後、ぐったりとしたロクシスの傍でヴェインたちは渡されたレシピに見入っていた。
「…これ、ほんとにユニホームって言うのかな…」
出来上がったものを想像すると、薄手の布一枚のものになりそうだった。
「これ、完成したら浴衣みたいになりそうだねー」
「みたい、ではない。卓球のユニホームと言えば浴衣にきまっておるだろう!」
踏ん反りかえりながらのグンナルの言葉に3人は一斉に驚いた。
「ええ!?」
「うっそ」
「卓球といえば浴衣!浴衣といえば卓球!王道だ」
「…そんなこと、聞いたこともありませんよ…」
ようやく復活したらしいロクシスの反論にも、グンナルは堪えない。
「少なくとも、学園ではそうだぞ。疑うならパメラに聞いてみればいい」
「は~い。呼んだ~?」
「おお、ちょうどいいところに。パメラ、ヴェインたちに卓球のユニホームについて教えてやってくれ。俺様の言葉は信用できんと言うのでな」
「卓球のユニホームってぇ~。ああ、そうそう『浴衣』ね~。昔は着ていたけど、あたし幽霊になっちゃったから新しいの持ってないのよね~。あ、もしかしてヴェインくん作ってくれるの?だったらかわいくしてね、おねがいよ~」
ヴェインの手元を覗き込んでレシピを見た後、にっこりと微笑んだパメラに、ヴェインが苦笑いを浮かべる。
「…ほんとう、なんだ」
「ほんとうって~?」
「…」
パメラの返答にもう言葉が出ない。
「さて、納得したな?ではさっそく『ユニホーム』作りの取り掛かるぞ、ヴェイン」
「ええ!?僕!?」
「いまパメラにも頼まれただろう」
「それは、いや、そうなんですけど…」
「他のものには、練習用の卓球台と道具を作ってもらう」
「うえーー」
「お前たちはろくに卓球をしたことがないというのだから、必要だろう」
「確かにそうですが…、ちなみにその間先輩は何を?」
「ならば俺様はちゃんと練習台やユニホームができるのか監督しておいてやろう」
(つづく)